鍵盤奏者が語るNordとサポート現場のリアル

2025年3月 日本武道館で上演されたgo!go!vanillas Lab. TOUR 。華やかに観客を魅了するバンドを支えるキーボーディストの2人の熱い対談をお届けします。


2025年3月8日 go!go!vanillas Lab. TOUR 日本武道館公演。華やかに観客を魅了するバンドを支えるのは、キーボーディストとして第一線で活躍する井上惇志(写真左)Takumadrops(写真右)。「おれたち、セットアップ全部Nordじゃん(笑)」そんな一言から始まった今回の対談。キーボーディストとしてそれぞれ独自のスタイルを持つ二人が、それぞれ異なるセットアップやプレイスタイルを持ちながら、ツインキーボードでの演奏を通じて見えてきたNordの魅力や、ライブならではの音作りの工夫について、熱い対談をお届けします。

ツインキーボード対談:go!go!vanillas武道館公演にて        

井上 : go!go!vanillasのサポート、武道館1日目が無事終わったね。こういうツインキーボードの現場ってかなり珍しいよね。

Takuma : 僕はほぼ初めてでした。あまりないですよね。

井上 : そもそもおれたちはいつ知り合ったんだっけ?二人とも出身は北海道だけど世代はひと回り近く違うよね。

Takuma : 僕は学生の時からshowmoreの井上さんとしてはもちろん知ってましたよ! 同郷の先輩として「北大出身の、こういう活動をしているキーボーディストの大先輩がいる」みたいなのは結構前から認知していました。

井上 : マジで!? それは嬉しいなぁ。おれは6-7年くらい前にTakumaが三軒茶屋のライブバーでやっていたライブを見に行ったのが初めてだったかな?同郷で、大学は違うけどジャズ研究会という同じサークル出身というのは知ってたんだけど、ライブを見たらピアノも上手いしすごいシュッとしてるし(笑)、色々と衝撃を受けた。

Takuma : その時Takumadropsとしてシンガーソングライターの活動は始めていた頃なんですが、「どういう活動をしていけばいいのか?」っていうのは正直手探り状態で、曲を作ったりジャズ系のライブハウスで実験的にライブをしてました。

井上 : 最初はピアノを弾いていたんだよね? キーボードを始めたのはいつなの?

Takuma : 叔父が電子ピアノを突然クリスマスプレゼントで買ってくれたのがピアノを始めたきっかけなんですが、それからもたまに突然楽器を買ってくれるタイミングがあって、ある日KORGのX50を買ってくれたんです、それがキーボードという意味では最初ですね。

X50をしばらく使っていて、「もっとシンプルに使える次のキーボードが欲しいな」と思った時に、結構な頻度でNord使っている人見かけて。それでぼんやり興味を持ち始めたんですけど、宮川純さんもNordを使っていたので、札幌に来る時にライブを見に行ったり話を聞いたりする中で、「Nord、いいよ!」って薦めてもらって。それで、今日使ってる Nord Electro 6D を買いました。

井上 : ジャズ出身の人は結構Nordを使ってるイメージが強いよね。シンプルでとっつきやすいのもあるのかな。

Nordを駆使する二人のこだわり        

井上 : 今回Takumaとツインキーボード編成でやってみたら、2人ともセットアップが全部Nordじゃんっていう(笑)
TakumaがNord Stage 3とNord Electro 6D でおれがNord GrandとNord Wave 2とNord Electro6D。構成は似てるけどやっぱりプレイスタイルは違うしTakumaのプレイは勉強になるので、一緒に演奏しながら横から色々と覗かせてもらってます(笑)

Takuma : (笑)。いやいや、僕は井上さんからめちゃめちゃ学んでますよ。


井上さんもずっとNordを使っているし、YoutubeでNordの解説動画をめっちゃ見て「同じ楽器を使ってるのになんでこの音でるの?」みたいな瞬間が多すぎて、たくさん研究しました。

井上 : 照れます(笑)昔からNord Electroをメイン機としてずっと使ってるんだけど、シンセがついてなかったりエフェクトも限られてるので「制限のある中でうまくやってやろう」っていう試行錯誤の中で自分の音色を見つけていけた感じかな。あとはシンセとオルガンは別の機材で弾きたいっていうのもある。Takumaも前はNord Electroをよく使ってたけど今はNord Stage 3 がメイン機だよね?

Takuma : 札幌に居た時はジャズライブが多かったのでグランドピアノを弾く機会も多くて、「いかにピアノという楽器全体を鳴らしきるか」みたいなことを模索していたんです。だからキーボードのセミウェイテッド鍵盤でピアノ音色を弾く時に、「自分が扱いきれない瞬間があるな」と思うこともあって。そういう意味でもピアノタッチの鍵盤を1つは持っておきたいと思って Nord Stage 3のピアノ鍵盤モデルを買いました。キーボードで生ピアノの音色を弾くことについてはずっと悩んでいた点だったので、そこが解消できたのはよかったですね。その上で生ピアノにシンセパッドをレイヤーするようなキーボードらしい使い方もガンガンできるし。

井上 : ピアノ鍵盤のタッチの話だと、Nord Piano、 Nord Stage、 Nord Grand それぞれ少しずつタッチが違うよね。本格的なグランドピアノの雰囲気を求めるとしたら自分はNord Grand のタッチが一番好きなんだけど、バニラズのツアーでは持ち運びやすいNord Piano 5 を使ってます。Stageに関しては持ってなかったからあまり詳しくなかったんだけど、今回TakumaのNord Stageも試しに弾かせてもらったらすごい弾きやすくてよかった。3つの中では比較的軽めだけど、オルガンやシンセも含めてなんでも対応できるモデルだから鍵盤も色んな楽器のニュアンスが出せるように調整されてるのかな。

Takuma : そう、Nord Stage 3のピアノの鍵盤ってめちゃくちゃ重いわけじゃないんです。その絶妙な塩梅がすごく良くて、シンセ音色でリードソロを弾いたりとかする時も全然いけます。Nord Stage はピアノやオルガンだけじゃなくてシンセセクションがしっかりしているからピアノにシンセをレイヤーする時も細かく弄れる。Nord ElectroのサンプルシンセもいいけどNord Stage の絶妙に痒いところに手が届く感みたいな?フィルターとか、ユニゾンで広がり感とかも出せて。

井上 : 今回のライブでもTakumaはレイヤーを上手く使ってるなって感心しました。Leyline(go!go!vanillas)のライブアレンジイントロとか最高だったね。

あの質感は Nord Electro や Nord Piano のサンプルシンセではやっぱり限界があるんだよね。俺はどちらかというとピアノ音色はスッピンで出すタイプだから、これからはもうちょっと工夫しようと思った。(笑)


それで、おれも今ピアノ/シンセ兼用でNord Stage 4を導入しようかなと考えていて。ライブシンセとしてはNord Wave2が一番使いやすくてずっと使ってるんだけど Nord Stage 4はシンセエンジンがNord Wave 2 と一緒ということもあって Nord Stage に興味がでてきました。

サポート現場で求められる「対応力」と「バイブス」        

井上 : 他の現場だと、Takumaは大橋トリオさんのサポートの時はどんな感じなの?

Takuma : 大橋さんは去年初めてホールツアーを回らせてもらったんですけど、音楽性的にアコースティック寄りの楽曲も多いのでホールツアーもピアノは生ピアノを弾く楽曲も多かったんですが、シンセ系、サンプル系は Nord Stage 3 88 で全てまかなって、Stage 3 のスプリットで難しい時なんかは Nord Electro 6D ですね。

井上 : スプリット・レイヤーを使う時は曲に応じた専用のスキルが必要だったりするよね。フレーズを弾く音域を調整したりとか。

Takuma : そうですね「スプリットだけで対応してると鍵盤が埋まっちゃってる」みたいな瞬間に対応したくて2台にしてます。そうするとアプローチの制限がなくなるし、4小節くらいのキーボードソロの時にディレイを結構かけた抜けるエレピの音色をあえてNord Electroに用意しておいてソロの時だけそっちを弾く、みたいなこともやってます。あとはオルガンもやっぱり物理ドローバーでリアルタイムにぐりぐり操作したいですし。

井上 : Nord Electro のウォーターフォール鍵盤の絶妙な軽さはエレピのニュアンスもしっかり出せるよね。本物のRhodesのちょっと軽いあのタッチの感じが出るから、おれもエレピはウォーターフォール鍵盤で弾きたい。もちろんオルガンも。

Takuma : 鍵盤のタッチについては、ピアノ鍵盤もウォーターフォール鍵盤もどっちも捨てがたいというか、超優秀ですよね。オルガンを弾くとなるとリアルタイムに物理ドローバーとかレスリーの回転スピードをいじりながらみたいな演奏がすごく好きだからやっぱり Nord Electro 6D で弾きたいという気持ちになるし、オルガン以外のピアノやエレピに関しては Nord Stage 3 も優秀でキータッチ調整がついてるからエレピの時にキータッチを1個軽くしたりとか。

井上 : 俺もキータッチ調整はよく使うな。Wurlitzerの音源を使う時は軽い設定にして、グランドピアノみたいな質感を出したいという時はオフ(重め)にしてガンって弾くと結構どっしりした音が出るから。Takumaも結構使いこなしてるね。(笑)

Takuma : いやいや(笑)、でも色々試行錯誤しながらです。
北海道出身の先輩方や少し下の世代など周りにめちゃくちゃすごい人が多いから、そこから受ける刺激がたくさんあります。

井上 : おれも周りの層が本当に厚くて刺激を受けてて、もっと基礎体力的なスキルを上げたいって思ってる。結局最後にものを言うのはスキルと引き出しの両方だと思うんだけど、自分は演奏技術の足りなさが原因で肝心の引き出しがガタついていて開けられないみたいな(笑)

今回も 来来来(go!go!vanillas) の間奏の速いフレーズのピアノとかは弾けないからTakumaにお願いしたよね。レコーディングは自分が弾いてるのに(笑)。おれは弾けない時は潔く諦めて、あとは機材の音の説得力に頼ろうみたいな逃げをよくやるから。

Takuma : わかります。僕も基礎をすっ飛ばしてるところがあって、読譜とか運指とか。だから、ちゃんとやっておけば良かったなってつくづく思うので、日々ちょっとずつ虱潰しにしていきたいなと思ってます。あと演奏技術はもちろん大前提として、最近は出す音色の重要性をすごく感じていますね。音作りのクオリティとかスピードはアイデアが出た時に膨らませていく対応力がポイントだなと思うし、そのためには演奏力と音作りの知識、感覚とかスピード感みたいなのが求められていると感じますね。

だから今回みたいに腰を据えて自分の中の持ち場というか、自分の出したい音みたいなところを擦り合わせながらやれたのがすごくよかったです。井上さんは元々ジャズが根っこにあるからサウンドやボキャブラリーが多いし、やっぱりあの音作りのスピードはなかなか真似できなくて。

井上あざっす(笑)バイブスでなんとか乗り切ってることも多いけどね(笑)

たとえばシンセの音って仕込むのに割と時間がかかるけど、Nordだと6割7割の完成度を一瞬で作れて、そこからみんなで演奏して合わせながら細かく追い込むみたいなことができるからとにかく早い。サポートで色々な現場に参加させてもらっているけど、どこでも一番求められているのは”速度と柔軟性”な気がしていて。現場でアーティストからパッと出たフラッシュアイディアに「ちょっと待ってください」で、音色作成に10分とか使っていられないから、とりあえずやりながらアイディアを詰めていくみたいなことが多いよね。耳で聴きながらざっくり作って、演奏中にも合わせながら微調整したり。

Takuma : 今回の公演でも、1日目と2日目で2人の弾き分けを変えたり色々と調整してますよね。


井上 :ライブは時間的制約がある中で決められたものだけじゃない違う物語を作りたくて、そういう意味ではおれたちはすごい波長が合ったと思う。ミキサーも途中で同じの買ったよね(笑) 一方で、同じ楽器を弾いていても出てくる音は全く違っていて、「TakumaのNord Electroなんであんないいオルガンの音するんだろうな」みたいなことも思いながら。

あとおれはもうずっと同じ楽器ばかり使っているから愛も強くて、自分のNord Electroはやっぱりおれの音がするんだよ。借りた楽器じゃなくて自分の楽器の方がやっぱり良い音がする。全く同じモデルでも。

自分の楽器にステッカーを貼ってるのも、キーボードっていう電化製品に楽器としての気持ちを入れたいっていうか、唯一の相棒に育てていきたいっていう気持ちがあるんだよね。

今後の展望        

井上 : こうやって話せたのは面白かったね。お互いの手の内を結構勉強できたから、今後どうしたいかとかも考えられるよね。

実は今年本格的なフルセットのハモンドオルガンを買ったんだけど、うまく扱いきれない部分もあるから今は Nord Electro 6D でオルガンを弾いてて、だからいろいろなオルガンを試したり、新しく出るNord Organ 3もちょっと興味あるな。

Takuma : 俺はエレピなり、ピアノなり、オルガンもそうだけど、実機を揃えたい欲が… 音作りってイメージが湧かないと辿り着けなかったりするじゃないですか。実機の質感とか感触もそうだけど、イメージを持っていると近道になる気がしていて。

やっぱりハモンドオルガンがめっちゃ好きだし、ゴスペルとかチャーチもきちんと勉強したい気持ちがあって。B3とまでいかなくても、2段プラス足鍵盤とかを買って、ちゃんと2段で足も含め練習できる環境を作りたいなとは思って。

井上 : モデリングとかサンプリングの技術って上がっているけど、元になっている1960、70年くらいのビンテージの楽器の音のイメージをちゃんと自分の中にインストールしておきたいよね。
Nordって自分のイメージを直接再現しやすいから、おれたちはプリセットをそのまま使わずに素の楽器の音から音色を作っていくけど、やっぱり元のサウンドのイメージを持っていると説得力のある音作りがしやすいよね。

Takuma : 本当にそう思います。どんどん実機を触っていきたいし、あとは自分のシンガーソングライターとしての活動においても色々な音楽の要素を取り入れていきたくて、楽器の話にも通ずるんですが新しいものとか昔のものとかも問わずたくさんインプットして、自分がテンション上がるような音楽を作っていきたいなって思ってます。

井上惇志 Atsushi Inoue

北海道岩見沢市出身
根津まなみ(vo)とのポップユニットshowmoreのキーボーディスト兼プロデューサーであり、実力派和製ソウルバンドShunské G & The Peasのメンバーとしても活動。 他にもジャンルを超えた様々なアーティストのプロジェクトにレギュラーメンバーとして参加する。

Takumadrops

北海道札幌市出身。

9 歳の頃から独学でピアノを始め、12歳の頃よりジャズピアノに傾倒。2021年より拠点を東京へ移し、数多くのジャズプレイヤーと共演すると共に数多くのライブやレコーディングに参加。2018 年「Takumadrops」名義にてシンガーソングライターの活動を開始。

撮影

renzo
Instagram:@renzo1101
X:@renzomasuda

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